豊嶋泰嗣さんが語る「MFK(Music Fusion in Kyoto 音楽祭)」の魅力

誰もが親しみやすい文化である音楽で京都府内を満たし、さらに地域の魅力も発信しようという「Music Fusion in Kyoto 音楽祭(MFK)」。その音楽監督を務め、ご自身はヴァイオリン・ヴィオラ奏者である豊嶋泰嗣さんに、MFKの魅力や想いを伺いました。

 

「音楽っていいな」と思えるような場を提供したい

― 2024年秋からスタートした「Music Fusion in Kyoto音楽祭」とは、一体どのような音楽祭なのでしょうか?

これは「京都府内全域に音楽を届けたい」というのが大きな趣旨となる音楽祭です。

京都市中心部はオーケストラや室内合奏団があり、音楽が学べる芸術大学や高校もあり、充分すぎるぐらい音楽が行き届いていると思います。ですので、それ以外の京都府内の各地にも音楽を届け、次世代の音楽家の育成や、音楽を通じて世代を超えた人と人との繋がりを育みたいということを主な目的として、スタートしました。

― 昨年のプログラムを拝見しますと、演奏会の一つ一つがとてもユニークですよね。宮津市で開催された「聴いて、ぶらり街歩き〜プロムナード・コンサート〜」では、文化ホールの他に旧三上家住宅など重要文化財の建物や、妙照寺・大頂寺といったお寺でも開催されていて、驚きました。

©Naoki Noda

音楽はコンサートホールだけのものではないですからね。体育館でも映画館でも、個人のお宅でもできるものです。ですから、地域の象徴的な建物や寺社などで行えば、地元の方々にも親しみが湧くかなと思って企画しました。宮津では街歩きとともに音楽を楽しんでもらう周遊企画として、風景とともに多くの方に音楽を楽しんでいただけたようです。

― さらに音楽ジャンルも幅広く、舞鶴市総合文化会館で行われた「SPECIAL GALA」では、いろいろなジャンルの音楽が集まった楽しい演奏会だったと伺っております。

©Naoki Noda

舞鶴のコンサートは全プログラムの中で一番、バラエティ豊かでしたね。モーツァルトから始まり、オペラのアリアやミュージカルナンバーの演奏、パーカッションの斉藤ノヴさんらのジャズ演奏もありました。いろんな音楽が溢れた、良い空間だったなと思います。
お客様も年配の方から小さなお子さん連れの方もいらっしゃいましたし、「手拍子で参加できるのが楽しかった」という感想もいただきました。
このようにMFKでは音楽への入口として様々なジャンルの音楽を聞いていただき、その体験を共有できたらいいなと思っています。

― MFKには「教育」プログラムもありますね。京都府内の複数の小中学校へ演奏家が赴き、鑑賞や体験型の公演を行われたということですが、これは子どもたちも喜んだことでしょう。

子どもたちにプロの演奏を間近で聴いてもらおうというものですね。学校で演奏すると子どもたちの感動がダイレクトに伝わってくるので、このような体験も必要だなと感じました。その中で1人でも2人でも音楽が好きになり、自分でもやってみたいと思う子がいればいいなと思いますね。

 

ヴァイオリン・ヴィオラ奏者・豊嶋泰嗣さんの音楽の原点

©Hiromasa Akaishi

― ここで少し、ヴァイオリン・ヴィオラ奏者としての豊嶋さんのことをお伺いしたいのですが、音楽を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

実は、もともと親が強制的にやらせた習い事の1つでした(笑)。姉がピアノを習っていて教室について行き始めたのが4歳頃、6歳でヴァイオリンをはじめました。ただ、小さい頃はやはり外で遊びたかった。だから練習は正直嫌でしたが、音楽を聴くことは好きでしたね。
練習して上手になるのが当たり前という空気の中で育ちましたが、自分がプロになるなんて、最初は全く考えていなかったです。ところが、小学校5年生の時に先生が変わりまして、その先生に習うということはイコール「音楽の道を目指す」ということでした。そのくらい本格的な先生についてしまい、音楽高校を受験しないという選択肢はなかったかな。受験に失敗していたら、諦めていたかもしれません。

中学校までは野球を一生懸命やる子もいれば、テニスを必死にやってる子など色々いましたが、音楽学校に入ると全員が当たり前に音楽をやっているんです。そして試験やコンクールなど、いろんなところで実力がさらされていくんですね。その中で張り切って結果を出そうとする人もいれば、マイペースでやる人もいる……そんな環境で「自分はどういうペースでやればいいのか、どういうものを目指したいのか」を考える高校・大学の7年間であったと思います。

— そして音楽大学卒業と同時に22歳で人新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターに就任するわけですね。

いろいろなタイミングもあったと思います。ちょうど小澤征爾さんらが設立した新日本フィルが人材を探していた時でしたから。小澤征爾さんは僕が通っていた桐朋学園の先輩で、当然、在校生の中に人材がいないか注目がいくわけです。そういう中で見つけてもらった感じですね。

 

音楽を楽しむきっかけ作りを

— 現在は関西を中心に活動されておられる豊嶋さんですが、京都では2000年にローム株式会社の佐藤研⼀郎社⻑(当時)と⼩澤征爾さんが立ち上げた教育プロジェクト「小澤征爾音楽塾」でもコーチをされているんですね。

そうですね。その他にも府民ホールアルティのレジデント・カルテット「京都アルティ弦楽四重奏団」を20年以上させてもらっていますし、京都市立芸術大学で教えるなど、京都にはとてもご縁があるんです。そのような中で京都市内は音楽が溢れているから、もっと京都府内の様々なところにも音楽を届けたいと思うようになったわけです。

— なるほど。その想いがMFKへと繋がっているのですね。

自分の住んでいる地域で音楽コンサートが催され、それを聞きに行く楽しみや、自分が演奏者として参加する楽しみが生まれるきっかけ作りを、お手伝いできればいいなと。ですが、まだMFKはスタートしたばかりなので手探りの部分もあります。とはいえ、焦って最初から形を決めるのではなく、やりながら模索していきたいですね。

MFKを通じて地域が盛り上がり、「来年のコンサートまで待てないから、自分たちで何か企画しよう!」 となってもいいわけです。そうやって小さな音楽会がいくつもできるのも良いですよね。我々が形を決め込むのではなく、京都府内に音楽の火種を撒いていこうと思って。そして京都でこのような音楽活動をしていることを世界中に発信できたらいいなと思っています!